特集 ・ エコツーリズムとJICA研修
平成13年度JICA自然公園の管理・運営と利用(エコツアー)研修実施
2001年9月17日〜10月25日、「平成13年度JICA自然公園の管理・運営と利用(エコツアー)研修」が 実施され、2カ国2名の研修員が参加しました。この研修は1998年より、アジア地域の自然公園の 管理・運営やエコツーリズムを担当する行政官を対象に、JICA北海道国際センター(帯広)を 実施機関、KIWCを受入機関として実施しています。
今回の研修では、従来の研修地である北海道東部の国立公園に、九州・沖縄地方の 霧島屋久国立公園(屋久島)、西表島国立公園(西表島)も加えました。 研修員は地域の特色を生かした各種エコツアーの体験や、環境調査の実習等を通して、 エコツーリズムの理念、技術・手法を学びました。
今回参加したベトナムのLe Duc Tuanさんは、自国のカンザーマングローブ生物圏保護区の 保全に係わる行政官です。この保護区一帯はベトナム戦争時の枯葉剤散布と 戦後の乱伐により、一時は壊滅状態となりましたが、20 年にわたる植林活動が実を結び、 現在では国内外の観光客が訪れる森となりました。カンザーでのエコツアー事情と 将来の展望について、Tuan さんに紹介してもらいます。
ベトナム・カンザーマングローブ生物圏保護区のエコツアーについて
T.カンザーマングローブ生物圏保護区の概要
 カンザーマングローブ生物圏保護区はホーチミン市の南60kmの海岸地区に位置し、 総面積は75,740haである。この地区での植林活動や事例研究が認められ、1992年に国の 環境保護林に指定された。2000年にはユネスコの「人と生物圏とのプログラム:MAB (The Man and the BiosphereProgramme )」対象地域にも認定され、ベトナムで初めての 世界生態保護ネットワークに属する生物圏保護区となった。
カンザーマングローブ生物圏保護区は、ホーチミン市人民委員会に属するカンザーマングローブ 生物圏保護区管理委員会によって管理されており、24 の管理区に区分されている。 実際に活動を行っているのは地域レンジャーであり、カンザー市に設けられた本部と、 5カ所の支所を拠点に、保護区内の違法行為の監視と記録報告を行っている。 現在この地域は科学調査の興味ある対象として、またホーチミン市内外の旅行者らにとって 魅力的な場所となっている。



Le Duc Tuan
ホーチミン市人民委員会
カンザーマングローブ生物圏
保護管理委員会常任書記
U.保護区内でのエコツーリズム事情
保護区内の24 管理区中2 つの区内にあるサイゴン旅行会社とPhu Tho旅行会社 では、ホーチミン市より許可を受けてビジターのためにエコツアーを企画運営している。 サイゴン旅行会社は1999年の5月に、エコツアーのために以下の5つの部門を設立した。
  1. 野生動物部門: この地域にはサル類(カニ クイザル等)、イリエワニ、イノシシ、カワ ウソ、ヘビ(パイソン)等が生息している。
  2. キャンピング部門: テントでの野営を希望する旅行者へのサービス提供をする。
  3. ゲストハウス部門: 日本のNGOであるACTMANG からの資金提供により設置された5棟の ゲストハウスがある。
  4. フィッシング部門: 釣堀の設置
  5. 旧抗米ゲリラ基地の再開発部門
一方、Phu Tho 旅行会社では、2000年6月に、以下の3地点においてエコツアーを運営した。
  1. バードサンクチュアリ: 野 鳥の生息する広さ200haのマングローブ林
  2. コウモリ・ラグーン: 野生コウモリの生息する50haのマングローブ林
  3. 観察塔: 高さ30mでマングローブ樹冠より高い。ビジターはここからマングロー ブ林を
    広く見渡すことができる。
 カンザーマングローブ林は、ユネスコのMAB認定後、エコツーリズムサイトとして 有名になった。しかし、2001年のビジター概算数が2 万人以上と著しく増加したために、 旅行活動による環境への負担も大きくなった。 日に日に増えつづけるゴミの問題や、ビジター用施設の不備、キャパシティの不足等の 問題も噴出した。
V.エコツアー再構築のためのアクションプラン
以下に述べるアイディアは、2001年9〜10月に私が参加したJICA 研修「自然公園の管 理・運営と利用(エコツアー)研修」にて、プログラムの一環として発表した、カンザーマングローブ 生物圏保護区でのエコツアーアクションプランである。
  1. エコツアー用施設の充実
    以下の施設が必要であると考える。
    1) 生態系、考古学、現地での歴史的行事等について展示のある博物館
    2) 観察施設:遊歩道、川岸、景勝地や木道沿いに設置。
    3) 自動モニタリング装置: 保護区内のさまざまな場所に設置。
  2. 環境教育
    カンザーマングローブ生物圏保護区内でも何度か環境教育プログラムが実施されたが、 次世代の要求に十分に応えるものではなかった。新しい環境教育活動として以下のプラ ンが挙げられる。
    1) ビジター向けにカンザーマングローブの生態を紹介するパンフレット、リーフレットの配布
    2) エコツーリズムガイドの養成、現地住民、学生等への教育
    3) 環境保護プログラムの普及啓発
  3. エコツアーの運営
    われわれは国内外の関連機関、個人、科学者や大学と協力して、日帰り〜2泊3日程度の 魅力的なエコツアープログラムを新たに企画する予定である。例えば、
    1) カヌー、ハイキング、サイクリング、気球による自然観察
       (鳥類、サル類、ワニ、シカ、コウモリ、ホタル等の野生生物や森林の形態等)
    2) 当地で毎年太陰暦の8 月15 日に開催される「漁師の祭り」に関係したイベント
    3) フィッシングプログラム
等である。日本での研修修了後帰国した現在は、これらのアクションプランを実現すべく、 エコツアー施設建設の準備をすすめているところである。
〜JICA研修にて〜
研修で様々なフィールドを訪れる度に何かを一心にメモしていたTUANさん。照れながら見せてくれたノートには、日本の自然の印象が英語とベトナム語の詩にまとめられていました。 その一編をここに紹介します(原文のまま)。

White Cloud Mountain Top

Forest,
Endless greenish.
Leaves,
Changing reddish.
White cloud,
My natural Spirit flying on.

JICAエコツアー研修修了生のたより
・・・From マレーシア

1999年度JICA自然公園の管理・運営と利用(エコツアー)研修に参加した、 マレーシアの Poh Wan Choong さんから、嬉しい便りが届きました。 当時マレーシア湿原財団の広報官だった Choong さんは、2001年の10月にオープンした パヤインダ湿地・展示センターの学芸員に就任し、センター業務の他、子供向けに 環境教育ワークショップを開催するなど、多忙ながらも充実した毎日を過しています。
「JIAC 研修が私に、現在の仕事に役立つ、多くのインスピレーションとアイディアを与えてくれた」との お便りです。


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