釧路地域のラムサール条約湿地

釧路湿原(くしろしつげん)(釧路市、釧路町、標茶町、鶴居村)
1980年ラムサール条約登録(登録面積7,863ha)

 東西25km、南北36km、総面積22,070haの日本最大の湿原で、日本で最初にラムサール条約湿地に登録されました。大部分はヨシ・スゲ湿原からなり、南北を貫いて流れる釧路川の支流が網の目のように広がっています。特別天然記念物タンチョウや、国内ではごく限られた地域でしか確認されていない「北方遺残種」のキタサンショウウオなど、希少な動植物が多くみられます。

湿原を守る

 1987年に国立公園に指定され、観光地として毎年国内外から人々が訪れています。
手つかずの自然が残る湿原の中央部は、ラムサール条約に登録されているほか、天然記念物、国設鳥獣保護区、国立公園特別保護地域として厳重に保護されています。
 しかし近年、湿原周辺の土地開発や過去の河川改修の影響による湿原植生の変化や環境の劣化が問題となっています。これをうけて、湿原周辺林の植林や釧路川の蛇行復元などの自然再生プロジェクトが現在進行中です。釧路湿原の自然再生を進めている釧路湿原再生協議会には行政機関のほか、釧路湿原を拠点に保全活動や研究、環境教育などを行っているNGOや研究者、学校など、100を超える団体・個人が参加しています。

湿原を楽しむ

湿原の広さを体感する
 湿原周辺の高台にある展望台からは、眼下一面の湿原と、その中を自在に流れる川の雄大な風景を楽しめます。もっと身近に湿原の自然を楽しみたい方には、木道の散策やカヌーでの川下りなどがおすすめです。目的や体力にあわせた、さまざまなツアーが行われています。自然ガイドが同行するツアーを選べば、より多くの発見や感動が得られることでしょう。
 そのほかにも、キャンプや乗馬、クロスカントリースキーなど、四季を通じて釧路湿原を楽しむための施設やプログラムが揃っています。

「湿原の神」タンチョウとの出会い
 昔話や和服、美術工芸の題材として、日本人にとって最もなじみの深い鳥・タンチョウは湿原をすみかとし、アイヌ語で「サルルンカムイ(湿原の神)」と呼ばれています。
かつて開発や狩猟により激減し、一時国内では絶滅したとまで思われました。その後釧路湿原で、わずかに生き残ったタンチョウの群れが発見されて以来(1924年)、地元の人々を中心に、手厚い保護活動が続けられてきました。
 現在も冬には湿原周辺の数か所にタンチョウの給餌場が設けられ、多くのツルと、それを見に来たバードウォッチャーやカメラマンでにぎわいます。釧路湿原では170種の野鳥が確認されており、タンチョウに限らず、バードウォッチングに最適です。

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阿寒湖(釧路市)
2005年ラムサール条約登録(登録面積1,318ha)

 阿寒湖は雄阿寒岳、雌阿寒岳の二つの活火山に挟まれた周囲25.9kmのカルデラ湖です。日本最大の淡水魚であるイトウをはじめ、多くの希少な水生動植物がみられます。なかでも藻類の一種であるマリモは有名で、球状に育ったものは特別天然記念物に指定されています。大きな球状マリモは、世界中でも阿寒湖でしか確認されていません。
 湖の周辺には、ヒグマやエゾシカなどの大型の哺乳類や、天然記念物のクマゲラ、シマフクロウなどの希少鳥類などが生息する深い森林が広がっています。 

湖と森を守る

 阿寒湖と周辺の湖沼、火山を含む一帯は、道内で最も早く国立公園に指定されました(阿寒国立公園 1934年)。また、阿寒湖の湖面全域がラムサール条約に登録されています。雄大な自然や温泉が有名で、古くから観光地としてにぎわってきました。
 湖周辺の山林は、100年にわたり民有地として林業が営まれてきました。現在、その所有を受け継いだ(財)前田一歩園財団により、豊かな自然環境を維持するための森林管理が行われています。所有林は一般の立ち入りが制限されています。
 また、マリモとその生育地保全のため、地元の保護団体による調査や、学校と連携した普及啓発活動など、官民による様々な活動がおこなわれています。

湖と森を楽しむ

自然と共生するアイヌ民族の文化にふれる
 阿寒湖畔では昔から、先住民族であるアイヌの人々が暮らしを営んできました。湖畔の温泉街にはアイヌ文化を紹介する資料館やシアターがあり、野生動物の生態や神話をモチーフにした古式舞踊(重要無形民俗文化財)や人形劇などを鑑賞できます。また、伝統的な木彫り、楽器製作体験プログラムや、厳しい北の自然と共に生きてきたアイヌの知恵を学びながら、森を歩くツアーなどもおこなわれています。

自然の中におじゃまする
 阿寒湖周辺の森林や火山には、自然探勝路や登山道が設けられており、変化に富んだ自然を歩いて楽しむことができます。また、民有林でも環境に配慮し、ルートや季節を限定したガイドツアーがおこなわれています。登山やキャンプ、釣りなどのアウトドアレジャーも盛んです。
 一帯は国立公園の中にあり、シマフクロウやクマゲラ、マリモなどの希少な動植物、またヒグマの生息地でもあることから、野外での活動にはマナーとルールの順守が求められています。また、阿寒湖、阿寒川上流の釣りについても魚類資源保護のため、釣りが可能な時期や種類、数などが定められています。

厳冬を楽しむ
 阿寒湖の冬は厳しく、気温がマイナス20℃を下回ることも珍しくありません。厚く凍った湖上でのワカサギ釣りや、スノーシューやクロスカントリースキーを使った雪中の散策など、冬ならではの楽しみも多彩です。冬の自然を楽しんだ後は、冷えた体を温泉で温められるのも魅力です。

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厚岸湖(あっけしこ)・
別寒辺牛湿原(べかんべうししつげん)(厚岸町)
1993年ラムサール条約登録(登録面積5,277ha)

 厚岸湖は太平洋に接する汽水湖で、毎冬1万羽以上のオオハクチョウが飛来する国内有数の水鳥中継地・越冬地です。
 別寒辺牛湿原は、厚岸湖に注ぐ別寒辺牛川とその支流に沿って細く枝状に広がっています。総面積は約8,300haで、ほとんどがヨシ・スゲの湿原からなっています。大部分はほとんど人が足を踏み入れることのない自然の姿をとどめており、タンチョウやイトウなど、多くの希少な野生生物が生息しています。

湿原と湖を守る

 厚岸湖、別寒辺牛湿原は連続して国設鳥獣保護区に指定されており、厚岸湾全域を含む特別保護地域がラムサール条約に登録されています。また、別寒辺牛川の下流域と厚岸湖から霧多布湿原(浜中町)に至る海岸地域一帯が厚岸道立自然公園に指定されています。
 厚岸湖ではカキとアサリの養殖のほか、冬の凍った湖の上でおこなわれる氷下待網漁なども盛んで、町の基幹産業である漁業の重要拠点となっています。漁場である海の環境を守るために、海に注ぐ河川と、その水源地である上流の森林もあわせて守るという考えから、地元の人々による別寒辺牛川上流域の植林活動や、環境にやさしい石けんの使用などが進められています。町ではこのような活動を積極的に支えるほか、厚岸水鳥観察館を拠点とした調査研究や、助成制度による研究者の支援にも力を入れています。

湿原と湖を楽しむ

自然のままの風景に身をおいてみる
 別寒辺牛川の中流・下流にはカヌーポートがあり、業者によるカヌーツアーもおこなわれています。周囲に人工的なものが一切ない別寒辺牛川湿原の中をカヌーでゆっくり進むと、岸辺のエゾシカやタンチョウ、時にはヒグマを見かけることもあります。
 このような野生生物のくらしをおびやかさないように、別寒辺牛川ではカヌーの昇降場所や利用期間、一日の利用艇数の上限が決められています。また、別寒辺牛川で初めてカヌーを利用する人には、自然や野生生物への配慮するためのレクチャーを受けてもらっています。

厳しい冬を生きのびる鳥たちをウォッチング
 厚岸湖には秋になると、北からオオハクチョウやカモ類が渡ってきます。冬に入り湖に氷が張ると、大部分の水鳥達はさらに南へと飛び去りますが、今度は氷下待網漁のおこぼれを狙って、オオワシやオジロワシといった大型のワシたちが集まってきます。別寒辺牛川沿いにある厚岸水鳥観察館では、大画面で遠隔カメラによる湖のライブ映像を見ることができます。

湖の恵みを味わう
 厚岸湖内で養殖されているカキやアサリは、料理地元のレストランで和洋中さまざまな料理に使われています。厚岸湖内の砂浜では、あさり採り体験ツアーもおこなわれており、特に家族連れに人気があります。

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霧多布湿原(きりたっぷしつげん)(浜中町)
1993年ラムサール条約登録(登録面積2,504ha)

 霧多布湿原は東西約3~4km、南北約9kmの太平洋に沿って広がる湿原です。大部分はミズゴケの泥炭地で、中に5本の河川が流れ、30以上の小さな池が点在しています。満潮時には海水が川をさかのぼって湿原の中央部まで流入します。特に夏には色とりどりの花々が一面に咲き乱れ、「花の湿原」として観光客の人気を集めています。

湿原を守る

 湿原の中央部は「霧多布泥炭形成植物群落」として国の天然記念物に指定されています。ラムサール条約に登録されているのは、霧多布湿原の主要部分と湿原の西に位置する二つの汽水湖、火散布沼(ひちりっぷぬま)・藻散布沼(もちりっぷぬま)で、国設鳥獣保護区の特別保護地区に相当します。またこの一帯は厚岸道立自然公園に指定されており、豊かな自然や美しい風景を求めて多くの観光客が訪れます。
 地域の人々が運営するNPO法人「霧多布湿原ナショナルトラスト」では、行政や地元の漁業・農業者、学校と連携して、霧多布湿原の保全と利用を積極的に進めています。民間保護区にするために土地を購入・借り入れするナショナルトラスト運動や木道の設置のほか、農業、漁業の基幹産業を活用したツアーや特産品の開発、環境教育などの活動を行っています。

湿原を楽しむ

天然のお花畑
 湿原では春から秋にかけて、ワタスゲやエゾカンゾウをはじめとするさまざまな花が、とぎれることなく咲き続けます。湿原内には4か所に木道が設置されており、野鳥のコーラスを楽しみながら、花の中を気軽に散策できます。自然ガイドによるツアーも行われており、花以外にも野鳥や虫、湿原のしくみなど、参加者の希望や年齢にあわせて、季節に応じた霧多布湿原の魅力を紹介してくれます。散策中にはタンチョウやエゾシカと出会うことも。

湿原のサポーターになる
 湿原内の木道は地元の人々を中心としたボランティアの手で設置されました。毎年、老朽化した部分の修繕作業がおこなわれていますが、この作業自体もイベントとして人気があり、町内外から多くの参加者を集めています。地域の人たちと親睦を深めつつ、作業に汗を流すことで、その人にとって霧多布湿原が「何度でも行きたい特別な場所」になるようです。

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