釧路地方の湿地「釧路湿原、厚岸湖・別寒辺牛湿原、霧多布湿原」と、オーストラリア南東部のニューサウスウェールズ州・ハンター地方にある「クーラガング湿地とその周辺湿地(2004年の提携更新時よりハンター河口湿地に改称)」は、1994年11月に姉妹湿地提携を結びました。
提携のきっかけとなったのは、シギの仲間であるオオジシギという鳥でした。この鳥は渡りをし、夏は本州以北(おもに北海道)の湿原や草原で繁殖、冬はオーストラリアの湿地で越冬します。
釧路市にある釧路西高校の野外科学部がこの鳥について、長年にわたり調査研究活動を続けてきました。その調査研究活動をまとめた報告書が、オーストラリア政府関係者をつうじて同国に寄贈されたことを契機に、釧路西高校と、オオジシギの越冬地であるハンター地方のジェスモンド高校(現在のキャラハン・カレッジ・ジェスモンド高校)との間に、姉妹校の提携が結ばれました。 あわせてこの提携の縁結び役となったオオジシギの繁殖地(釧路地方)と越冬地(ハンター地方)の湿地同士も、姉妹湿地として提携することになったのです。これは「湿地」の姉妹提携としては日本で初めてのことでした。
姉妹湿地提携は、湿地の保全と賢明な利用を促進させ、湿地保全に関する技術や知識を交換することを目的としています。提携を契機に、湿地の専門家を含む日本・オーストラリア双方の訪問団が互いの地域を視察訪問し、情報交換や交流活動がおこなわれています。
提携10周年を迎えた2004年には提携内容の見直しと更新が行われ、今後もさらに友好と技術交流を深めていくことを確認しました。

オオジシギ



ハンター河口湿地

面積:2971ヘクタール
標高:10メートル
湿地のタイプ:マングローブ林、塩湿地、沿岸湿地、モクマオウ林、汽水・淡水湿地、開放水面、干潟、砂浜海岸、岩礁海岸
 
ハンター河口湿地は、ニューサウスウェールズ州、ハンター川の河口に位置する、いくつかの小さな島・砂州からなる湿地です。
この場所は、渡りをする水鳥にとって、採餌場、休息地として大変重要な役割を果たしており、専門家等による鳥類調査や野鳥観察のフィールドとなっています。 1984年には、「クーラガング自然保護区」としてラムサール条約登録湿地に指定されました。
現在、長年の開発により失われた自然を取り戻し、人と自然が共存できるような、湿地のより賢明な利用を進めるための「クーラガング湿地再生計画」が、官民一体となって進められています。
2002年、登録湿地が拡大し、「ハンター河口湿地」と改称されました。

ハンター河口湿地の位置
ハンター河口湿地の位置
 


上の地図を拡大したところ
 


姉妹湿地の様子(クーラガング自然保護区)


ハンターウェットランズセンター

ハンターウェットランズセンターは、クーラガング湿地に代表される、ハンター地方を流れるハンター川流域の湿地と、そこに生息する野生生物保全の普及啓発活動を目的として1985年に設立されました(設立当時の名称はショートランドウェットランドセンター)
1996年以来、KIWCと相互で、湿地専門家による視察や交流活動を続けており、特に市民参加型の運営方法や湿地再生等の技術的、専門的な分野において、知識・技術の交換に努めています。

  


ポートスティーブンス市
ハンター川河口域を含む海岸線に広がる、人口約7万人(2010年)の行政区。温暖な気候と、長さ35kmにも及ぶ白砂のビーチや火山隆起による岩場等、変化に富む景観に恵まれ、世界的に有名な観光地のひとつでもあります。海岸周辺には多様な形態の森林・湿地帯が数多く存在しています。
主な産業は観光業やアルミ精錬業、軽工業等のほか漁業も盛んです。特に観光部門では、美しい景観を楽しむ従来型観光に加え、ダイビングやヨット等のマリンスポーツや、イルカウォッチング等の自然観察ツアー等、多岐にわたる事業が展開されています。
2002年からポートスティーブンス姉妹都市委員会による市民訪問団が定期的に釧路地域を訪れ、市民同士の交流を重ねています。

ニューカッスル市
ハンター地方最大の都市(人口15万人・2011年)。国内で2番目に古い都市であり、市内では多くの歴史的遺産と、美しいビーチや多数の湿地に代表される豊かな自然景観を見ることができます。古くから良質の石炭を産出し、採炭と鉄鋼業、石炭等の輸出業の工業都市として栄えてきましたが、現在は観光都市へと変わりつつあります。 また、農業も盛んで、ワインの名産地としても有名です。
さらに、オーストラリア最大の都市シドニーからのアクセスのよさや充実した宿泊施設を活かし、国際会議・コンベンション都市としても高い評価を得ています。


1989年6月 オーストラリア国立公園野生生物局長の釧路での講演会開催。 釧路西高校野外科学部の生徒が出席し、意見交換をおこなう。
1989年12月 パースで開催されたIUCN総会への釧路市長出席。 オーストラリア国立公園野生生物局長に、釧路西高校野外科学部による「オオジシギの繁殖行動に関する研究報告書」を贈る。
1990年10月 オーストラリア国立公園野生生物局職員による釧路西高校を訪問。
1993年6月 オーストラリア国立公園野生生物局長による釧路西高校での記念講演会開催。姉妹校提携を協議し、姉妹湿地提携についても提案が出される。
1993年11月 日豪渡り鳥協定会議のオーストラリア代表と、姉妹湿地提携・姉妹校提携について基本合意。
1994年11月 釧路側代表団によるオーストラリア訪問。ショートランドウェットランドセンター (現 ウェットランドセンター オーストラリア)にて姉妹湿地および姉妹校提携の調印式をおこなう(11月7日)。
1994年12月 オーストラリア政府自然保護庁長官らが釧路西高校を訪問し、野外科学部の生徒らと交流する。
1995年5・6月 クーラガング湿地再生計画関係者・渡り鳥研究者による釧路地域でのオオジシギ調査実施。地元の専門家と交流する。
1995年9月 姉妹校であるジェスモント高校より訪問団が来釧。釧路西高校の生徒をはじめとする釧路市民と交流。
1996年3月 釧路地域からの訪問団によるオーストラリア訪問。姉妹湿地およびその周辺施設の視察と情報交換をおこなう。
1997年10月 姉妹校交換留学生2名を含む訪問団による来釧。
1999年5月 中米コスタリカで開催された第7回ラムサール条約締約国会議にて、KIWC関係者とショートランドウェットランドセンター関係者との意見・情報交換。
1999年8月 ポートスティーブンス郡長らによる訪問団(3名)の釧路地域のラムサール登録湿地視察。釧路側と意見交換をおこなう。
2001年9月 KIWC(釧路市)専門家による姉妹湿地訪問。湿地回復プロジェクトを視察。 ウェットランドセンター・オーストラリア、クーラガング湿地再生計画、姉妹校の関係者らと、今後の協力について意見交換をおこなう。
2002年4月 ポートスティーブンス姉妹都市委員会長らによる訪問団(8名)の来釧。 姉妹湿地の視察のほか、ホームビジットや自然保護に関する交流会等を通じて、釧路市民と交流する。
2003年2月 湿地に修復に関する市民フォーラム(釧路)へ、クーラガング湿地再生計画専門家が参加。湿地の再生・修復について釧路地域の姉妹湿地を視察し、地元関係者と意見交換もおこなう。
2003年7月 ラムサール条約釧路会議10周年記念事業に、ウェットランドセンター・オーストラリア理事長が参加。今後の湿地保全のありかたと地域住民の参加について、地元の人々と交流をおこなう。
2004年9月 ポートスティーブンス姉妹都市委員会により組織された市民訪問団(19名)が来釧。 姉妹湿地や関連施設等の視察のほか、道立標茶高校の訪問、自然保護および国際交流に関わる地域の人々との交流会等を通じて、釧路地域の人々と友好を深める。
2004年11月 姉妹湿地提携10周年を迎えての更新調印のため、KIWC理事長(釧路市長)らKIWC関係者3名がニューカッスル市およびポートスティーブンス郡を訪問。姉妹湿地の視察のほか、クーラガング湿地再生プロジェクト、ウェットランドセンター・オーストラリアを訪れ、今後の湿地交流の活動内容を討議するワークショップに参加する。
2006年4月 ポートスティーブンス姉妹都市委員会訪問団11名が釧路を訪問。釧路市内での歓迎レセプション後、市民ボランティア受け入れによる3泊4日のホームステイを体験する。
2007年11月 釧路市長(KIWC理事長)を団長とする市民訪問団32名が、ニューカッスル市、ポートスティーブンス市を訪問。ホームステイや交流会などで地域の人々と交流を深めたほか、クーラガング湿地の自然再生現場を視察し、記念植樹を行った。
2008年11月 ポートスティーブンス姉妹都市委員会訪問団6名が釧路を訪問。釧路湿原の視察ツアーや、地元自治体・湿地関係者との交流会の後、市民ボランティア受け入れによるホームステイを体験した。
2011年4月 東日本大震災に対する支援として、市民団体の「ポートスティーブンス姉妹都市委員会」から釧路地域に対し、1000オーストラリアドルの寄付が寄せられる。
2012年7月 ルーマニアで開催されたラムサール条約第11回締約国会議の会場で、KIWCとハンター河口湿地の関係者が会合し、今後の交流について意見交換した。
2012年11月 オーストラリアの湿地保全NGO・ウェットランドケアオ−ストラリアの協力により、KIWCなどが開催した釧路湿原写真コンテストの応募作品と、ウェットランドケアオーストラリア主催の湿地の写真・アートコンテストの歴代入賞作品を両者の施設で展示する事業をおこなった。