「みんなで調べる復元河川の環境・2012秋」調査の実施
(2012年度河川整備基金助成事業)

2012年9月9日(日)に、釧路湿原自然再生事業で蛇行が復活して3年目の釧路川中流域の環境を、カヌーで移動しながら調べました。小学生から70代までの26名が参加し、カヌー3艇に分乗して、復元された蛇行河道から埋め戻された直線河道との合流部を経て、下流の自然河川に至る5.5kmを下りました。
参加者達には約2時間の川下りの間に、河岸の浸食・堆積の様子や河畔林の植生、景観や野生生物など、見つけたものや気づいたこと、感じたことなどを、それぞれ自由に記録してもらいました。また、途中で河岸の砂州3か所に上陸し、堆積した土壌の構成や砂州の大きさなどを調べました。
2012a1.jpg(17217 byte) 2012a2.jpg(16434 byte) 上陸後は「ふりかえり」を行い、調査中に記録した内容を艇ごとにまとめて発表しました。全員の発表内容を川の区間でわけてみると、自然のままの河道では、倒木や沈木の多さ、さまざまな樹木からなる河畔林、ヤマセミやミンク、トンボなどの野生生物など、特に多くの「気づき」があったことがわかりました。実は、蛇行復元河道から続く自然河川の一部は、釧路川本来の河川環境を示すリファレンスサイト(対照区間)として、河道の蛇行復元により再生される自然環境の目安となっています。そこでこれらの発見をもとに、復元事業により蛇行が戻ったばかりの河道が目指す「将来のすがた」を皆で思い浮かべてみました。その他にも、この日はあいにくの雨の中の作業だったにもかかわらず「広々とした風景」「心地よい風」「水滴のきらめきがきれい」などの意見も挙がり、多くの参加者が初秋の釧路川の自然を楽しんだ様子もうかがえました。
2012a3.jpg(29378 byte) また、堆積土壌の調査では、蛇行復元した河道とその直下に、上流から流れてきた土砂が堆積してきている様子が確認されました。参加者皆で、自然豊かな釧路川の環境を守るために、蛇行の復元がどのような効果をもたらすのか考えました。


JICA自然・文化資源の持続可能な利用(エコツーリズム)研修コースの実施

JICAエコツアー研修 2012年8月27日(月)から10月1日(月)まで、JICA(国際協力機構)北海道(帯広)による集団研修「自然・文化資源の持続可能な利用(エコツーリズム)」研修を、KIWCが受け入れ機関として実施しました。今回は6ヵ国(アルゼンチン、ケニア、タイ、ウガンダ、バヌアツ、ベトナム)より、自然公園の管理や利用、観光による地域振興に携わる中央・地方の行政官やNGO職員が参加しました。
「エコツーリズム」は訪れる土地の自然や社会に配慮しつつ、その自然や文化を学びながら楽しむ旅行スタイルのひとつです。地域の自然や文化を、直接利益を得られる観光資源として持続的に活用できることから、地域開発の手法として近年特に途上国で注目されています。しかし、多くの国では地域の住民が直接ツアー運営に参加し、利益を得られる仕組み作りや、そのための法律的な制度などがまだ整っていません。
研修員はまず、東北海道の豊かな自然で、自然ガイドの案内によるハイキング(然別湖)や、野生生物への影響軽減のため利用制限のあるカヌー(別寒辺牛川)などのエコツアープログラムや、その自然の恵みを利用した漁業・酪農などの一次産業を活用した観光(瓜幕の農場でのじゃがいも収穫、霧多布・厚岸での漁業者と交流しながら海の幸を楽しむプログラムなど)などを体験しました。そしてこれらの経験や講義、ディスカッションなどを通じて、自然を利用する際に必要な環境への配慮やそのための普及啓発、モニタリングの大切さなどについても学びました。北海道では釧路のボランティア団体の協力により、一般家庭を訪問するホームビジットも体験し、仲良くなったホストファミリーとの交流を楽しみました。
その後研修員は東京・京都で伝統文化や里山を素材としたエコツーリズムについて、理論と体験の両方から学びました。プログラムの中には、エコツーリズムを学ぶ大学生とのワークショップや、日本のエコツーリズムや自然公園管理に関する講義などもありました。
研修の最後には、1か月あまりの日本滞在中に得た知識やアイディアを帰国後、自分の職場でどのように活かすかについて、各研修員が具体的なエコツーリズム振興策を発表しました。地元ガイドの養成や国立公園の整備計画、農村ホームステイツアーなど、各国の事情に合わせた、さまざまなプランが紹介されました。 2012a5.gif(29451 byte) 2012a6.gif(31723 byte)


技術委員会現地検討会の開催

KIWC技術委員会は2012年10月4日(木)に厚岸町、浜中町での現地検討会を開催しました。今回視察の対象になったのは厚岸町大別の「町民の森」と、浜中町西円朱別を流れる三郎川で、委員・関係者9名が現地を訪問しました。
厚岸町では、厚岸湖を含む別寒辺牛川流域全体の環境保全活動の一環として、地域住民の参加による植樹祭を2000年から毎年開催しています。植樹祭には高校生や漁業・農業協働組合、建設会社等企業や町内会などの団体などを中心に幅広い層が参加し、今年度は600人以上がアオダモやイタヤカエデなど2000本あまりを植樹しました。町の人口は1万人余りですから、この参加者数は非常に大きな数字といえます。
委員会では町内数カ所にある町民の森のうち、2011年から植樹が行われている場所に訪問し、厚岸町環境政策課の担当者から説明を受けながら、植林地の環境や、シカ除けの太陽光電池式電柵、防除装置などを視察しました。
現地検討会1 現地検討会2
町内の植林活動は、もともと漁協の婦人部などが始めたものでした。町の基幹産業である漁業の場を守るため、海に注ぐ別寒辺牛川の水源地である森林を育てるという趣旨でしたが、その活動に行政が協力し、やがて大きな事業に発展した現在の植樹祭でも、森と海とのつながりについて参加者に説明し、作業後には参加者にアサリ汁や海鮮フライなど、厚岸の海の幸がふるまわれているそうです。ちなみにこの植樹事業の原資は、町で実施している廃棄物リサイクル事業による収益があてられており、住民が廃棄物を分別しリサイクルすることで得た資金が森の保全に使われ、森を守ることでその下流にある別寒辺牛湿原・別寒辺牛川、さらには海の保全にも貢献する仕組みになっています。ごみリサイクル活動が、最終的には豊かな海産物となって住民に利益をもたらすというアイディアに、参加者からは大きな感嘆の声が上がりました。
もうひとつの訪問地である三郎川(風連川水系)では、浜中町の西円浄水場の脇にある手作り魚道を視察しました。魚道は土嚢と丸太を組んで作った三角形の構造物4基が並んだもので、2008年に浜中町の酪農家を中心とする地域住民により、取水堰の前に設置されました。下流の河川環境や漁業活動に配慮し、工事は一切重機やコンクリートを用いず、全て手作業で行われました。
魚が堰のような段差を超えるためには、助走のための距離と、ある程度の水の深さが必要となりますが、堰前の構造物が水をせき止めたため堰直下の水面が上昇し、元は平時で約1mあった堰の落差が50pほどに縮まって、魚の遡上が容易になりました。魚道設置後の翌春には、堰の上流にイトウの産卵床も見つかっています。
以前から浜中では、地元の酪農家達が所有地に植林し登録する「緑の回廊」プロジェクトが進められてきました。この活動の延長として、牧草地の中を走る三郎川の河川環境を改善するため、魚道が作られることになりました。川の中の工事には、資金の確保はもちろん、法律上の許可取得や工法・河川生態系への影響に関する専門的知識など、解決すべき様々な課題がありましたが、資金を負担した霧多布湿原ナショナルトラストを始め、地域の自治体や専門家など、多方面からの協力のもと実現に至りました。
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現地視察では、当時霧多布湿原ナショナルトラストの館長として事業のコーディネートを担当し、その後は緑の回廊プロジェクトの主催団体として設立されたNPO法人「えんの森」事務局長を務める河原淳委員が、魚道の仕組みや設置の経緯などについて説明を行いました。河川環境を守るために手作業で魚道を設置するという困難な作業について地元の理解と協力を得るため、専門家を招いて勉強会を重ねたこと、また、専門家には魚道の設計を、行政機関には法的な助言と許可を、酪農家達には現場の作業を依頼するなど「その人ができることを一つだけお願いすること」で多くの人に参加を促す工夫など、地域の人達を主体とした活動を行うためのヒントとなる話を聞くことができました。
今でも魚道製作にかかわった人達は、雨が降ると魚道の様子を見に、川に出かけているそうです。自然素材だけで作った魚道はやがて壊れる運命にあるため、その都度人力でメンテナンスを行う予定ですが、このような地元の人々の愛着と関心が、将来にわたり魚道を維持する鍵といえるでしょう。
視察を終えた参加者からは「ぜひこのような取り組みをもっと多くの人に知ってもらいたい」「厚岸や浜中のアイディアを釧路湿原など、ほかの地域での活動にも活かしたい」などの感想や、勉強会などの地道な普及啓発活動や、コーディネーターの存在の重要性を指摘する意見などが出されました。